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業界の構造と機会

機会の分析の参考に―


キーワード: 市場分散型業界新興業界成熟業界衰退業界国際業界ネットワーク型業界超競争業界コアなし業界

 企業の外部環境の脅威とは、SCPモデルに即していえば、「業界の競争レベルを上昇させ、企業のパフォーマンスを標準レベルに押し下げようとする力」である。ポーターによれば、企業が標準を上回る利益を維持したり創出したりする能力は、業界の5つの属性によって脅威にさらされるとされ、これらの競争要因はファイブ・フォースとして有名である。

それらを踏まえ、本ページでは、「脅威」に代わり「機会」に関する。

SCPの論理では、外部環境に存在する機会を理解する1つの方法は、業界の構造とそれに付随する機会を検証することである


表 業界構造と外部環境における機会
バーニー, 2003, p170 表4-1を引用、ポーターは下表に示す5つの業界構造のタイプにおいて検証している。

業界構造 さまざまな機会
市場分散型業界(fragmented industries) 集約・統合
  新しい規模の経済を発見、所有構造を転換
新興業界(emerging industries) 先行者優位
  技術的リーダーシップ
  戦略的に価値ある経営資源の先制確保
  顧客のスイッチング・コストの確立
成熟業界(mature industries) 製品改良、サービス品質への投資、プロセス革新
衰退業界(declining industries) リーダーシップ戦略、ニッチ戦略、収穫戦略、撤退戦略
国際業界(international industriesy) マルチナショナルな機会、グローバルな機会、トランスナショナルな機会
ネットワーク型業界(network industries) 先行者優位と勝者総取り戦略
超競争業界(hypercompetitive industries) 柔軟性、先制破壊
コアなし業界(empty core industries) 談合、政府規制、高度な製品差別化、需要マネジメント

以上の記載は、バーニー, 2003邦訳, 第4章 機会の分析を参照、引用している。
以降、それぞれの業界の特徴と機会をバーニー, 2003邦訳をもとに記載する。








市場分散型業界(fragmented industries)
小さなプレイヤーのクラスターで、大きなプレイヤーが存在しにくい。多数の中小企業が存在するが、市場シェアの対部分や主要技術を占有する企業がない。サービス業界、小売業界、繊維業界、商業用印刷業界などの大部分。

市場分散になるのは―
①参入障壁がほとんど存在しない、②規模の経済がほとんど存在しない(無数の参入を招く)、ことが述べられている。

市場分散型業界による機会
多数の小・中規模企業を集約する、また、それまで知られていなかった規模の経済を実現などの「集約・統合戦略(consolidation strategy)」を実施することがこの業界に存在する機会である。例えば、フランチャイズなど(ファースト・フード・すし屋チェーンなど)で、この場合、集約・統合によってもたらされる価値が集約・統合のコストを上回らなければならない。



新興業界(emerging industries)
技術革新や市場需要の変動、新しい顧客ニーズなどの出現で新たに生まれた業界、またはいったん消えたが復活した業界のことである。これまでの新興業界の例は、マイクロプロセッサ業界、パソコン業界、バイオ・テクノロジー等である。

新興業界による機会
この業界が活用できる種々の機会は、先行者優位(first-mover advantage)というカテゴリーに分類される。
先行者は、自社のみに有利な形で競争のルールを確立したり、業界構造を創造する場合がある。

先行者優位の源泉―
1.技術的リーダーシップ
業界発展の初期段階で、特定の技術に投資し、累積生産量が後発企業よりも大きくなる、また特許による保護などの優位性を生み出す。ただ、優位が持続されるのは、当該技術が、競合他社に急速に拡散しない場合に限る。また、多くの技術は模倣が可能である。
2.戦略的に価値ある資源の先制確保
技術より、この要因の方が持続可能でありやすい。このような経営資源の確保は、模倣に対する強力な障壁を築き上げたことになる。例えば、原材料へのアクセス、特に好ましい地理的ロケーション、特に好ましい製品市場におけるポジションなど。
3.顧客のスイッチング・コストの確立
顧客がその企業の製品やサービスを利用するのに何らかの投資をして、かつ他の企業の製品やサービスを利用するには役にたたない場合に生じる。このような投資は顧客を特定の企業に固着させる(顧客が他の企業を利用しようとするとスイッチングコストがかかる)。例えば、パソコンのアプリケーション・ソフト、処方箋医薬品,日用食料品雑貨など
先行者劣位と2番手戦略
新技術に早期に投資し、戦略的に価値のある経営資源を獲得、顧客のスイッチングコストを高めることは、魅力的な機会ではあるが、もともと、不確実性が高いこの業界では、同時にリスクを背負っている(先行者劣位)。また、不確実性が高い新興業界では、先行者になる以外の戦略代替案は柔軟性(flexibility)を保持することであり、2番手は65%程度のコストで先行者の技術の模倣が可能(特許の実証分析より)であることなどから、早期の投資に対するリターンが確実でなければ、2番手になることも有効な戦略になりうる(2番手戦略の例:IBMのコンピュータ技術)。



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成熟業界(mature industries)
新しいビジネスのルールが普及し、技術が競合他社によって拡散し、新製品や新技術の革新のスピードが鈍化するにつれ、当該業界は成熟のフェーズへと移行していく。主な特徴は―
  ①業界の総需要のスピードが鈍化
  ②経験豊富なリピート顧客の存在
  ③新製品やサービスの導入の鈍化
  ④外国製競合製品の増加
  ⑤業界の利益率の全体的低下
が挙げられている。


成熟業界による機会
成熟業界での機会は、(新興業界での)新製品・新技術の開発からシフトし、一般に―
  ①現行製品の改良
  ②サービス品質の向上
  ③プロセス革新による製造コストの削減と品質向上
に存在している。



衰退業界(declining industries)
継続的に業界全体の売り上げ規模が減少している業界。機会よりも多くの脅威にさらされている。典型的には、冷戦終結後の米国の国防産業。


衰退業界における機会
この種の業界で企業が持ちえる代表的な戦略オプションは―
  1. 市場リーダーシップ戦略
    市場リーダーになる目的は、談合でもなく、規模の経済による低コストでもなく、来るべき再編を乗り切れないと思われる企業の市場撤退を促すことにある。業界再編の後には存続可能と判断した場合、そこでの自社にとっての有利な競争ポジションを築くものである。例えば、企業同士で合併し過剰生産能力を削減するなど。
  2. ニッチ戦略
    上記の市場リーダーシップ戦略とこのニッチ戦略は、存続し続けるという戦略事業範囲を狭く絞り、業界のある特定のセグメントに集中するものである。
  3. 収穫戦略
    この戦略を採る企業は、長期に渡って存続することは考えておらず、撤退するまでの収益を最大化しようとする。事前には、収穫できるだけの標準的経済パフォーマンスをあげている企業に可能な戦略である。方法としては、製品ラインの縮小、配送網の縮小、利益のあがらない顧客の切捨て、製品品質の切り下げ、サービス品質の切り下げ等があるが、従業員のモチベーション等を考慮して、この戦略の実行中であることは表明しない。
  4. 撤退戦略
    衰退する業界においては、最後の機会である。収穫戦略との差異は、①非常に短期間で終了すること、②業界の衰退パターンがはっきりした直後に実行に移されることが多い、ということである。確固たる競争優位を持たない企業にとっては、収穫すべき経済価値も大きくないので、収穫戦略よりも撤退戦略のほうが有効である。





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国際業界(international industriesy)
事業の国際化は、ボーイング(米国)、ネスレ(スイス)、ノキア(フィンランド)、ソニー(日本)などの巨大企業の多くが、自国市場を上回る売上を外国市場から上げていることからも、この機会は重要である。著者は、国際化した業界における機会は、大きく3つのカテゴリーに分類されることを指摘するにとどめている。
  1. マルチナショナル戦略
    例えば、ネスレ、GMのように、それぞれの国や地域の違いや独自性を重んじるもので(ローカリゼーションに重点)、各国の事業部はそれぞれ独立しており、各市場に関して自由裁量が与えられている。
  2. グローバル戦略
    マルチナショナル戦略を採る企業は、各市場で独立した事業を展開するが、グローバルな機会を追求する企業は事業展開にあたり、各国の調整という負荷があるものの、生産拠点や販売拠点は最も適したところに集中させる。各国の地域特有のニーズ、機会、脅威への対応をある程度、犠牲にしなければならないが、酷にや地域にとって市場構造にバラツキがない場合は有効な戦略となる。
  3. トランスナショナル戦略
    グローバルレベルの統合とローカルレベルの統合をトレード・オフと考えずに、両者の利点を同時に追及するアプローチで、このトランスナショナルな機会を追求する企業は、「分散され、かつ相互に依存する経営資源やケイパビリティの統合ネットワーク」ととらえている。どこでイノベーションを行なうかは、決まっていない。


ここまでの5つの業界構造は、SCPモデルを前提としている。SCPモデルはもともと業界を分析単位とした分析のためのモデルであり、個別企業の戦略を議論するためのものではない(個別企業の違いを含んでいない)。従って、戦略選択の一般モデルには外部環境(脅威と機会)と組織内部(強みと弱み)の両方の分析が必要である。

次には、近年、上記以外の業界構造の存在が明らかになっており、その3つを記載する。




ネットワーク型業界(network industries)
製品やサービスの価格が少なくとも部分的に、それらの製品やサービスの販売量そのものによって影響を受ける場合、そのような業界をいう。例えば、電話、ファクシミリなどは、少人数より大人数での使用が価値を増加させる。こういうことから、この業界は、収穫逓増の業界ともいわれる(これまで述べた業界もこの性質は十分にある)。

主な機会は、①先行者優位、②勝者先取り戦略(ウィナー・テイク・オール戦略)である。






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超競争業界(hypercompetitive industries)
これまで述べてきた業界に比べても、競争状況の展開が不安定であり、予測が困難な業界。例えば、電子商取引、バイオテクノロジーである(著者がこれを表したのは2002年)。この業界での重要な戦略機会は―
  ①柔軟性(ある戦略から他の戦略へ切り替える際の低コスト性)
  ②先制破壊(競争プロセスを支配し、競争の基本条件を左右する戦略を追及すること)
である。



コアなし業界(empty core industries)
超競争業界のように基本条件が不安定であることに対して、この業界は、いたって安定し固定化された業界である。この属性のため、これまでの議論にある競争戦略が功を奏すことはほとんどない。それは、買い手はよりよい条件を求めて購買行動を続けるが決して取引が成立しないのである。

この状態に陥り、多額で不可逆的な埋没コストが存在すると、企業には平均コストを下回る価格設定を行なう強いインセンティブが働く。これは損失をもたらし、このような平均コスト未満に価格が設定される競争は、破滅的競争と言われる。
*バーニーは例に、規制緩和後の米国の航空産業を挙げている。

関連)Wikipedia【埋没費用】

この業界での機会は―
①談合
②政府規制
③高度な製品差別化(異なる顧客グループを生み出す程度の高いレベル)
④需要マネジメント


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<参考文献>
○ジェイ・B・バーニー, 岡田正大訳, 『企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続』ダイヤモンド社 ,2003邦訳, 第4章 機会の分析より。






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