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垂直統合

統治形態とその視点


キーワード: 垂直統合の定義前方垂直統合後方垂直統合機会主義の脅威取引特殊

 企業のバリューチェーン―個々の活動の集合体において、製品・サービス、当該企業が顧客へ何らかの成果物を届けるには、その活動すべてが実行されなくてはならない。これらの内、どれを自社独自に行なうか、あるいは他社に任せるかにおいて、意思決定がなされる可能性がある。

ここで、バリューチェーンのなかのどれだけのステージ(活動)に携わるかが垂直統合(vertical integration)度を決める。携わる活動の数が多いほど垂直統合の度合いは高い(少ないほど低い)。



垂直統合の方向

企業が垂直統合度を高くする際:
―製品やサービスの最終顧客とよりダイレクトに接触する方向に進む場合(例:メーカーが販売チャネルを買収してしまう)、それを、前方垂直統合(forward-vertical integration)という。逆に、製品やサービスの最終顧客と遠ざかる方向に進む場合(例:自動車会社(アセンブラー)がそれまで外部調達していた部品を内製する)を後方垂直統合(backward-vertical integration)という。






垂直統合の方向

以上の記載は、バーニー, 2003邦訳, 第6章 垂直統合参照。
以降、それぞれの分析についても主に、バーニー, 2003邦訳(中)を基に記載する。






3つの統治形態
  1. 市場による統治(market governance):市場を通じて取引する(外部との契約)
    市場取引には取引コストがかかる。取引コストとは、主に以下の4つである(加護野, 井上, 2004を参照)
    • ●取引先を探すのにかかる探索費用
      ●お互いに情報交換して取引を成立させるための交渉費用
      ●合意したとおりに取引が行われたかをチェックする監視費用
      ●関係特殊的*な投資に由来する費用
    *関係特殊的:正当な取引契約を結び,その取引が契約どおり履行されているかを監視するためのコスト

  2. 階層組織による統治(hierarchical governance):企業組織を用いる統治=垂直統合(内部化)
    上記のような取引コストはかからないが、内部化にはデメリットが挙げられている(同上)。
    • ●スケールメリットが追求しにくい(自分の会社の他部門だけを相手にするのでビジネススケールは小さい)
      ●外部の専門性の高い業者に比べて内部化した部門が十分な知識を蓄積できないかもしれない
      ●管理のコストが高い可能性がある(思ったよりも調整や監視がたいへんかもしれない)
      ●取引が安定しすぎて、競争原理が働きにくくなる(甘えがでる)

  3. 中間的統治(intermediate governance):両極の間に位置する統治メカニズム
    形態は様々であるが、市場による統治と階層による統治の双方のメリットをあわせもつ統治を実現しようとするものである。協力の要素を持ちながらも競争原理を働かせることができ、系列などは中間統治にあたる。


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(上に挙げた)統治形態を選択するための3つの視点
3つの統治形態にはそれぞれ強みと弱みがあるが、より有効な形態はどれか、選択する際の主な視点は以下である。
  1. 取引費用の視点
    取引費用論は、内部化するか、内部化しないかの選択を、取引コストによって判断するというアプローチで:
    ―取引費用が高い場合:内部に統合すべき
    ―取引費用が低い場合:外部の業者を利用すべき
    を基本的な考え方とする。

    理論は、1930年代、ノーベル賞を受賞した経済学者ロナルド・コースによって提唱された取引費用経済学(transaction cost economics) で、経済取引を統治する方法を選択する上で重要なフレームワークである。基本的主張は「ある経済取引が潜在的に価値を持つと見なされる時、統治メカニズム(それが市場であれ企業であれ)の目的は、その取引において取引主体が不公平に搾取される脅威を、可能な限り低いコストで最小化することである」というものである。この理論は、後に、オリバー・ウイリアムソンらによって、統治選択の包括的モデルへと発展した。

    オリバー・ウイリアムソンは、「機会主義の脅威(threat of opportunism)」―市場か階層組織かに関わりなく、すべての経済取引に存在するこの脅威をこう呼んだ。それは、取引に存在する「だまし・ごまかし」の脅威などで、取引相手の弱みにつけこむ行動、機会主義的な行動のことである。


    機会主義の脅威の大きさが、統治形態の選択を決める
    ○機会主義の脅威が大きい:垂直統合(内部化)
    ○機会主義の脅威が小さい:市場による統治
    ○機会主義の脅威が中間程度:中間的統治

    個々の経済取引に適した統治の形態を決めるのは、その経済取引が内包する機会主義の脅威であるが、機会主義は、外部組織の場合、発見やコントロールが難しい。ゆえに機会主義の脅威が大きい場合は、企業内部に垂直統合(内部化)することが合理的となる。


    経済取引における機会主義的行動の脅威を決定づける要因
    ○その経済取引における取引特殊*な投資のレベル
    ○その経済取引が内包する不確実性と複雑性のレベル
    * 取引特殊(transaction specific):ある特定の経済取引に伴って行われるある投資の価値が、他のいかなる経済取引における同様の投資の価値よりもはるかに大きい場合(すなわち、その投資の第1の用途に比べて、第2の用途における価値が著しく低くなる場合)、その投資は取引特殊であるという。

    ―例えば、A社がB社との取引でしか用いることのできない、ある特別な技術に投資を行ったとき、A社は取引特殊な投資を行ったことになる。
    この例の場合、B社との取引のための取引特殊な投資をしてしまったA社は、他社との取引よりもB社との取引を選ぶという力が働くようになり、B社は、A社に対して機会主義の脅威が発生する。

    また、不確実性や複雑性が高位場合、何が起こるかの予測が難しく、何を契約しておかなければならないかがわからない。そのため、機会主義の脅威が大きくなる。


    取引コスト論にもとづく 統治形態の選択
    以上に基づいて:
    ○取引特殊な投資が必要(機会主義の脅威が大きい):垂直統合(内部化)
    ○不確実性や複雑性が高い(機械主義の脅威が大きい):垂直統合(内部化)
    *できれば、取引特殊は行なわず、垂直統合したほうがよい。

  2. ケイパビリティーの視点
    ある企業は研究開発機能において優れているかもしれないし、ある企業は販売とマーケティング、あるいはアフターサービスに優れているかもしれないという経営資源の異質性(resource heterogenity)の前提に立てば、上記の取引コスト論だけでは説明がつかない矛盾する命題がある。それは―
    著しい機会主義の脅威が存在するにも関わらず、非階層的統治を選択すべき場合がある」である。

    この視点からは、取引する相手の企業がどのようなケイパビリティーを保有しているのかが鍵であり、取引相手が価値があり、希少で模倣コストが高いケイパビリティーを持っており、その取引相手と取引することによって得られる価値が機会主義の脅威というコストを上回る場合、垂直統合せずに取引する選択をするということは合理的である。

    先の命題は、取引費用理論と矛盾するものいであったが、次は、整合する命題を考える。それは―
    企業は、自社が持続的競争を有している事業では、垂直統合すべきである」というものである。
    これは、取引コスト論によれば、高度に企業特殊な経営資源やケイパビリティーへの投資を行う場合、非階層的形態で統治しようとすると、著しい機会主義の脅威が生じるため、垂直統合(内部化)を選択すべきとなる。

  3. リアル・オプションの視点(不確実性と統治選択)
    ある特定の投資が最終的に価値を有するかどうかが非常に不確実である場合、戦略的柔軟性(strategic flexibility)を最大化する統治選択をするべきであり、投資の価値の不確実性が高い(機会主義の脅威があっても)場合、柔軟性を確保するため非垂直統合(内部化しない)を選択する。
    取引費用論との矛盾は、取引コスト論では、不確実性が高い状況では、相手を監視できる契約条件を特定することが非常に難しいため内部化が合理的とされる、という点である。

    *オプション:ある特定の資産を事前に定めた価格で事前に定めた期日に売買する権利(義務ではない)
    *リアルオプション(real option):工場設備、流通ネットワーク、または技術など実物資産に設定されるオプション





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 3つのアプローチは矛盾する部分を抱えており、いまのところ,3つを統合する理論はない。従って、垂直統合に関する意思決定者は、直面する状況において、3つのモデルのうち、相対的重要性を勘案しなければならない。

この1つの方法論をバーニー(2003邦訳(中), p38, 図6-3)は3つの視点を図に示した。

図 垂直統合の意思決定に関する3つの視点の統合
当初の条件 統治の課題 統治形態の選択
取引特殊な投資が大きい 機会主義の脅威がある 階層的統治
=垂直統合(内部化)
機会主義について予測できず、不確実性と複雑性が高い




価値があり希少で模倣コストと獲得コストが大きいケイパビリティーを他の企業が保有している
他の企業がコントロールする特別なケイパビリティへのアクセスが獲得できるか/機会主義の脅威よりも当該企業と取引する価値が上回る
非階層的統治
投資の価値に不確実性が存在する
柔軟性を保つ必要がある 非階層的統治




<参考文献>
○ジェイ・B・バーニー, 岡田正大訳, 『企業戦略論【中】事業戦略編 競争優位の構築と持続 』, ダイヤモンド社 ,2003邦訳, 第6章 垂直統合より。
○加護野忠男, 井上達彦,『事業システム戦略―事業の仕組みと競争優位 (有斐閣アルマ) 』, 有斐閣 , 2004






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